ベランダや窓辺に置かれた爽やかなミントの鉢植え。それは癒やしを与えてくれる存在ですが、一歩間違えれば、家の中で最も遭遇したくない生物、ゴキブリの楽園、すなわち「巣」と化してしまう危険性を秘めています。ゴキブリがミントの葉を食べるわけではありません。彼らが狙うのは、ミントが育つその「環境」なのです。一つの事例を見てみましょう。ある家庭では、ゴキブリ対策としてキッチンカウンターにミントの鉢植えを置いていました。しかし、ある時から夜な夜なゴキブリを見かけるようになり、発生源をたどった結果、そのミントの鉢植えに行き着きました。鉢をひっくり返してみると、土の中からはゴキブリの卵鞘、つまり卵が詰まったカプセルがいくつも見つかったのです。この事例における危険因子は明確でした。まず、常に湿っている土。ミントの生育のためにと毎日水やりを欠かさなかった結果、土壌はゴキブリが産卵するのに最適な湿度を保っていました。次に、鉢と受け皿の間に存在する暗く湿った空間。受け皿に溜まった水は彼らの喉を潤し、鉢底の穴から土の中へ自由に出入りできる、まさに要塞のような構造だったのです。さらに、生い茂ったミントの葉は、上からの光を遮り、天敵から身を守るための完璧な屋根の役割を果たしていました。このように、鉢植えという小さな生態系は、人間の意図とは裏腹に、ゴキブリにとって住処、産卵場所、給水所という三つの機能を兼ね備えた理想的な物件になり得るのです。ミントの香りが持つわずかな忌避効果など、この快適な住環境の前では無力に等しいでしょう。もしあなたがミントを栽培しているなら、一度その鉢を注意深く観察してみてください。土は湿りすぎていないか、受け皿に水は溜まっていないか、枯れ葉が溜まっていないか。その鉢は、癒やしのグリーンではなく、次世代のゴキブリを育む揺りかごになってしまっているかもしれません。