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軒下の悪夢、キイロスズメバチの巣との攻防
その夏、我が家は、静かなる侵略者に、テリトリーを奪われました。ある日の午後、庭の草むしりをしていた私の頭上を、一匹の大きな蜂が、威嚇するように飛び回りました。黄色と黒の、見慣れた、しかし決して見慣れたくない縞模様。キイロスズメバチです。嫌な予感を覚えながら、私は、蜂が飛んでいった先、二階の寝室の窓のすぐ上にある、軒下を見上げました。そこに、それはありました。直径30センチはあろうかという、美しいマーブル模様の球体。我が家の軒下は、いつの間にか、凶暴な蜂たちの要塞と化していたのです。その日から、私たちの生活は一変しました。寝室の窓は、開けることのできない「開かずの窓」となりました。庭に出るのも、蜂を刺激しないかと、おそるおそる。洗濯物を干す時も、常に上空を警戒しなければなりません。夜、照明に誘われて、蜂が網戸に激しく体当たりしてくる音は、恐怖以外の何物でもありませんでした。私は、インターネットで駆除方法を調べましたが、そこに書かれていたのは、「絶対に自分でやるな」という、警告の言葉ばかり。私は、観念して、地元の駆除業者に連絡を取りました。数日後、夕暮れ時にやってきた作業員の方は、まるで宇宙服のような、真っ白な防護服に身を包んでいました。その物々しい姿に、私は改めて、自分が相手にしているものの危険性を思い知りました。作業は、驚くほど手際良く、そして静かに行われました。長いノズルの付いた機材で、巣穴に直接、強力な薬剤を注入。しばらくして、羽音が完全に消えたのを確認すると、大きなハサミで巣を根元から切り落とし、分厚い袋に手早く回収していきました。切り取られた巣の断面から見えた、何層にも重なった巣盤の、おびただしい数の六角形の穴に、私は言葉を失いました。費用は、3万円。しかし、あの恐怖から解放され、再び窓を開けて、夏の夜風を感じることができるようになった喜びは、その金額には代えがたいものでした。